疑似恋愛と恋愛と結婚の狭間で生きる若者たちの資産運用

日本と海外の「推し活」文化から見る、お金の使い方と未来設計

「今月も推しに5万円使っちゃった…」

そうつぶやきながらも、来月のライブチケットやグッズ販売の予定をチェックする。恋人はいない。結婚も考えていない。でも推しがいれば幸せ。

これは2025年、日本の若者たちのリアルな姿です。

推し活市場は3.5兆円に到達し、推し活人口は約1,384万人。一人当たり年間25万5,035円を推し活に投じています。

しかし、この「疑似恋愛」とも言える推し活文化は、若者たちの資産形成にどんな影響を与えているのでしょうか?

そして、海外と比べて日本の推し活は何が違うのか?

今回は、日本と海外の推し文化を比較しながら、若者たちの恋愛観とお金の使い方について考えます。


Part 1:日本の推し活事情 〜年間25万円の「疑似恋愛」〜

推し活にいくら使っている?

2025年の調査によれば、推し活をしている人の年間平均支出額は25万5,035円。月換算すると約2万1,000円です。

ただし、年代や性別で大きな差があります。

年代別・性別の推し活支出額(年間)

年代・性別年間支出額
35〜39歳男性約44万5,565円
40〜44歳男性約37万2,350円
30〜34歳女性約33万6,695円

※出典:推し活総研 2025年調査

20代に限定すると、推し活にお金をかけている人の割合は35.3%で、月平均1万2,150円です。これはゲーム課金の19.2%、月平均5,080円を大きく上回ります。

何にお金を使っているのか?

最も支出が多いのは「公式グッズ」(30.7%)、次いで「チケット」(29.7%)、「遠征」(23.0%)です。

注目すべきは、「1年前よりお金をかけるようになった」と回答した割合が、「遠征」や「公式グッズ」で93%、「チケット」が89%と、推し活への支出が年々増加していることです。

推し活は「疑似恋愛」なのか?

推し活の本質は、恋愛感情に近い感情を、アイドルやキャラクターに向けることです。

  • 推しの写真を毎日見る
  • 推しの言動に一喜一憂する
  • 推しのために時間とお金を使う
  • 推しの幸せを願う

これは恋人との関係性と非常に似ています。しかし決定的な違いがあります。

推し活は「片想い」「一方通行」であり、「負担がない」のです。

恋人との関係には、以下のような負担が伴います:

  • デート代の支出
  • 相手の機嫌や都合への配慮
  • 将来への責任(結婚、出産など)
  • 喧嘩や別れのリスク

一方、推し活には:

  • 自分のペースで応援できる
  • 見返りを求めない
  • 裏切られるリスクが低い(引退やスキャンダルを除く)
  • 同じ推しを持つ仲間とのつながり

つまり、推し活は「恋愛の楽しい部分だけ」を味わえる、都合の良い疑似恋愛と言えるかもしれません。


Part 2:海外の推し文化 〜「Fandom」と「Stan」〜

海外では「推し活」をなんと言う?

海外では推し活は「fandom(ファンダム)」文化に含まれ、主に英語圏では「stan(=熱狂的なファン)」という言葉が使われています。

日本のような「推し」という単語は存在せず、「my fave」や「bias(K-POP用語)」などが使われています。

日本と海外の推し活、何が違う?

日本の特徴

チェキ撮影や握手会、舞台挨拶など、現場での推し活が盛んで、オンラインだけではなく、オフラインでの「推し活」も積極的に行われているのが特徴です。

さらに:

  • コミケ(コミックマーケット)などのイベント文化
  • 痛バッグ、誕生日装飾などの独自文化
  • 聖地巡礼
  • グッズの大量購入・コレクション文化

海外(欧米)の特徴

日本ほど現場イベントが多くないため、SNSやファンアート、翻訳活動などが推し活の中心になり、ファンによる考察、二次創作(fanfic)などが盛んです。

また:

  • ファン主催の寄付やキャンペーン
  • 世界中のファンとのオンライン交流
  • コンベンション(コミコンなど)での交流

アジア(韓国・中国)の特徴

韓国では「センイル広告」と言い、推しの誕生日や記念日の際にファンが地下鉄駅やバス停、バスラッピングなど、至る所に広告を出す様子が見られます。

中国では航空券の裏面に推しの誕生日広告を出すこともあります。

海外から見た日本の推し活

「日本のファンは本気度が違う」と感心されることが多く、SNS上では「Oshi culture」という言葉も使われ始めています。

ただし、痛バッグ、グッズ大量購入、誕生日装飾などの「全力推し活」が海外一般層にはやや奇異に見える場合もあります。

海外の推し活、課金額はどう?

残念ながら、海外の推し活における具体的な平均課金額のデータは限定的です。ただし、以下の傾向が見られます:

  • K-POPファン:韓国での広告出稿、グッズ購入など高額支出も
  • 欧米のファン:グッズよりもコンベンション参加費、旅費が中心
  • 全体的に:日本ほど「現場でのグッズ購入」文化が発達していない

つまり、日本の推し活は世界的に見ても「お金をかける文化」と言えそうです。


Part 3:推し活と恋愛・結婚 〜若者たちの選択〜

なぜ若者は「リアルな恋愛」より「推し活」を選ぶのか?

理由1:コストパフォーマンスが良い

リアルな恋愛・結婚には莫大なコストがかかります:

項目費用
デート代(月2回)月2〜3万円
結婚式平均300万円
出産・育児費用年間100万円以上
マイホーム購入3,000万円〜

一方、推し活は年間25万円程度。月2万円で済みます。

理由2:精神的負担が少ない

  • 喧嘩しない
  • 相手の機嫌を取る必要がない
  • 自分の時間を犠牲にしない
  • 別れる心配がない(引退は別)

理由3:コミュニティへの帰属感

推し活を通じて、同じ価値観を持つ仲間と繋がれます。恋人がいなくても孤独を感じにくい。

推し活世代の結婚観

「結婚しなくても幸せ」という価値観が広がっています。

  • 推しがいれば寂しくない
  • 経済的に一人でも生きていける
  • 結婚・出産のプレッシャーからの解放

しかし、ここに大きな問題があります。


Part 4:推し活と資産運用 〜将来は大丈夫?〜

推し活と貯金・投資の両立、できている?

推し活をする人の半数が「推し活」にかかる費用を負担に感じています。

そして、「推し活」の費用捻出は「節約」次いで「ポイ活」となり、普段の消費活動の延長線での行動が最多です。

一方で、「副業」や「投資」など追加の収入源から捻出している人もいます。

興味深いのは、「推し活」に30,000円の費用をかけている約3人に1人が投資を実施している点です。

つまり、推し活にお金をかけている人ほど、投資にも前向きという傾向があります。

推し活民の投資事情

「推し活」の費用を「投資」で捻出しているという方は、「国内株式」や「投資信託」の割合が高く、約半数が「新NISA」を活用しています。

さらに、「推し活」の費用を投資で捻出されていると回答した人の約半数が「推し活投資」を行っているそうです。

「推し活投資」とは?

  • 推しが広告で出ている企業の銘柄を購入
  • 推しの所属事務所と資本関係のある企業へ投資

これは面白い現象です。推しへの愛が、投資行動にまで影響を与えているのです。

問題点:推し活だけでは老後資金は足りない

しかし、現実を見てみましょう。

老後に必要な資金:約2,000万円(金融庁試算)

年間25万円を推し活に使い続けた場合、30年で750万円。

もしこれを全額投資に回していたら(年利5%想定):

  • 30年後:約1,700万円
  • 40年後:約3,200万円

つまり、推し活に使うお金を投資に回せば、老後資金は確保できるのです。

推し活世代のライフプランシミュレーション

推し活に年間25万円使い続けると:

  • 30年間で750万円の支出
  • 投資していれば1,700万円の資産
  • 差額:2,450万円

この差は、老後の生活を大きく左右します。


Part 5:賢い推し活 × 資産運用のバランス

推し活を楽しみながら資産形成する方法

ステップ1:推し活予算を決める

まず、月々の推し活予算を明確にします。

推奨:月収の10%以内

  • 月収20万円 → 推し活予算2万円
  • 月収30万円 → 推し活予算3万円

ステップ2:推し活予算と同額を投資に回す

推し活に2万円使うなら、投資にも2万円。

これを「推し活ミラーリング投資」と呼びましょう。

ステップ3:推し活投資も活用

推しに関連する企業に投資することで、推し活と資産形成を両立。

例:

  • 推しが所属する事務所の親会社の株
  • 推しがCMに出ている企業の株
  • アニメ制作会社の株

ステップ4:NISAを最大限活用

推し活民の約半数が新NISAを活用しています。

新NISA(2024年〜)の非課税枠

  • つみたて投資枠:年間120万円
  • 成長投資枠:年間240万円

推し活予算を月2万円(年24万円)に抑えれば、残りをNISA枠で投資できます。

具体例:30歳から始める推し活 × 資産運用

前提:

  • 月収30万円
  • 推し活予算:月2万円(年24万円)
  • 投資:月2万円(年24万円、年利5%想定)

65歳時点の資産(35年後):

  • 投資総額:840万円(24万円 × 35年)
  • 運用益込み:約2,300万円

一方、推し活に全額使った場合:

  • 支出総額:840万円
  • 資産:0円

差額:2,300万円

この差は、老後の生活の質を大きく左右します。


Part 6:海外の推し活民は資産運用している?

残念ながら、海外の推し活民の資産運用状況についての具体的なデータは限定的です。

ただし、以下の傾向が推測されます:

欧米の場合

  • 若年層の投資率は日本より高い傾向
  • 401(k)などの確定拠出年金が普及
  • 推し活よりも「自己投資」(学費、資格取得)にお金を使う文化

アジア(韓国・中国)の場合

  • 韓国:推し活への高額支出が社会問題化しているケースも
  • 中国:政府がアイドル産業を規制、ファンの過度な支出を抑制

つまり、日本の推し活民は、海外と比べて「推し活と資産運用の両立」において先進的とも言えます。

現在投資をしていない「推し活」者の半数以上が今後投資をしたいと回答しています。


まとめ:疑似恋愛も資産運用も、バランスが大事

推し活は、若者たちにとって心の支えであり、人生の楽しみです。

それ自体は決して悪いことではありません。

しかし、「今」の幸せだけを追求して、「未来」を犠牲にしてはいけません。

推し活と資産運用、両立のポイント

  1. 推し活予算を明確にする(月収の10%以内)
  2. 推し活と同額を投資に回す(ミラーリング投資)
  3. NISAを最大限活用する
  4. 推し活投資も楽しむ(推し関連企業への投資)
  5. 長期的な視点を持つ(30年後の自分を想像する)

恋愛・結婚について

推し活は「疑似恋愛」として機能しますが、リアルな恋愛や結婚を完全に代替するものではありません。

  • 推しは一生あなたのそばにいてくれるわけではない
  • 老後の孤独は推しでは埋められない
  • 家族や パートナーとの関係も、人生を豊かにする

推し活と恋愛、どちらか一方ではなく、バランスよく楽しむことが大切です。

最後に

日本の推し活文化は、世界的に見ても独特で、情熱的です。

しかし、その情熱を未来の自分にも向けてみませんか?

推しのために今日も働く。

そして、未来の自分のために今日も投資する。

この両立こそが、疑似恋愛と恋愛と結婚の狭間で生きる若者たちの、賢い生き方ではないでしょうか。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。投資は自己責任で行ってください。また、推し活を否定するものでもありません。バランスの取れた人生設計の一助となれば幸いです。

投稿者 Muraoka Risa

県立広島女子大学 国際文化学部 国際文化学科にて、日本文化コースを専攻、卒業。特に、日本の食文化や伝統的な社会構造が現代のグローバルな問題とどのように接続しているかを国際的な視点から研究しました。 卒業後、さまざまな職を経験し、異文化理解には単なる語学力だけでなく、「教養(Content)」が不可欠であることを痛感。この経験から、英語を学ぶと同時に、世界を深く理解するための知識を身につけるCLIL(内容言語統合型学習)メソッドに特化した本メディアIchiLogiを立ち上げました。 専門的な知見(日本文化と国際関係)に基づき、日常の疑問から、社会の真実まで、知的好奇心を満たす質の高いコンテンツを企画・提供しています。 「AIと知識があれば、どこにいても世界の扉は開かれる。」 この信念のもと、読者の皆様が世界と対等に議論できる「知的な語彙力」と「論理的思考力」を身につけるサポートをいたします。

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